大嫌いだった鉄棒

 私は子供のころ、鉄棒が大嫌いだった。運動が嫌いだったわけではない。ボール運動などはそれなりにできたし、走るのもまあまあ早い方だった。しかし、鉄棒だけは自分には絶対できないような気がした。ちょっとやってみても逆上がりなんてとても無理そうだ。技が何もできなければ、これほど退屈で面白く無い運動は無い。
 さらには少し太っていたこともあって、「自分には鉄棒は無理だ、できっこない」と完全に決めてかかっていた。それが勘違いだと気づくまでに、何とその後二十年の歳月を要することになる。いや、あるきっかけがなければ、私は鉄棒嫌いのまま一生を終えたことは間違い無いだろう。こういう勘違いは鉄棒に関してだけでなく、どんな物にも、どんな事にも起こり得る事なのだが・・・。

そして転機が訪れた

 その後、中学校高校と私立の進学校に進むと、何と体育の授業で鉄棒は扱われず、6年間鉄棒に全く触れる事なく過ぎた。そして大学は教育系の大学で専門が体育という道を選ぶ事になり、もちろん授業を受ける事になる。しかし結局、小学校の子供ができるような膝かけ後ろ回り(後方片膝かけ回転)すらできないまま卒業し、小学校の教師になってしまった。今度は自分が子供達に教えるのだが、教えもせずにただやらせるだけなので子供達はちっと上手くならなかった。今思えば、本当に申し訳ないことをしたと思う。自分と同じ「鉄棒嫌い」をどんどん増やしていたのだから・・・。
 そんなある日、担任している学級の一人の子が休み時間に私に近寄ってきた。そしておもむろに「先生、一緒に鉄棒いこ!」と言ったのだ。先生なのにろくに技ができない私はもちろん狼狽し絶対行きたく無いと心の中で思ったが、立場上断るわけにはいかない。顔では笑顔を作りつつ、心では泣いて鉄棒に付き合った。その子が「こうしたらできるよ!」と見本を見せてくれるが、やってみてもできない。やっぱり(自分には無理だなあ)なんて改めて思った私は、その時すでに30才前であった。
 しかし、その子に励まされ、コツもわからぬまま練習を続けているとついに膝かけ後ろ回り(後方片膝かけ回転)ができる瞬間がやってきた。何だろう、あの時の気持ち、あのこみ上げてくる喜び。生まれて初めて〇〇ができたという感動。それを味わった私は、それから鉄棒にどんどんのめり込んでいく事になり、鉄棒関係の本も買って読みあさり、挙げ句の果てに家の庭に鉄棒を設置するまでに至った。自分の子供達と夕食後に一緒に鉄棒を楽しんだのは今となっては懐かしい思い出だ。

嫌われる理由は好かれる理由でもあった

 鉄棒が嫌われる理由は(怖い)(痛い)などもあるだろうが、一番は「できる」「できない」がはっきりしている事だと言っていいだろう。しかし、それを裏返せばできると面白いという事になる。鉄棒を始めるのは保育園、幼稚園、小学校低学年ごろぐらいだろうが、最初の段階でできないから面白いと思わなかった子供は、それを避けるようになる。なかなかできるようにならない事で興味関心を徐々に失っていくわけである。
 でも好きな子もいる。それはできると楽しいからである。鉄棒は初めてその技ができた瞬間がはっきりとわかる。その、「生まれて初めて〇〇という技ができた」という感動がこの運動を好きにさせる。つまり「できる」「できない」がはっきりしている事は諸刃の刃であり、嫌われる理由にも好かれる理由にもなっているわけである。

誰もちゃんと教えてくれない

 鉄棒ができる子が少ないのは、ちゃんと教えてくれる人がいないからだ。そしてできないから嫌われるのは当然だと言える。子供の頃から鉄棒が得意だった人や競技スポーツで鉄棒をやっている人は、なぜできるかを考えずに長い時間を練習に費やし、感覚的にやってきた人が多いので教えることはできにくい。もちろん鉄棒が大嫌いな人は教えようともしないし、教えることもできないのは当然である。かくして、子供達はちゃんと教えられることなく間違った練習を続け、余計にできなくなっていく。
 私は鉄棒が大嫌いだった。もちろん誰も教えてくれなかったし、もし教えてくれても今知識を持った自分からするとそれは的外れなものだった。的確にコツを教えてもらうことができれば、できるまでにかかる時間は大幅に短縮できるだろうし、鉄棒が好きな子ども(もちろん大人でもいいのだが)も増えるに違いない。そこでこれから多くの人に鉄棒の楽しさを知ってもらうためにこのブログを続けていこうと思っている。このブログがヒントとなり、鉄棒の楽しさを一人でも多くの人に知っていただければこれほどの喜びはない。

 最初の投稿から随分と月日が経ってしまったが、今日から新たに始めようと思います(毎日更新できるよう頑張ります)この先動画も使って、お役に立てたらと計画しています。もし、このブログが役になったらコメントいただければありがたいです。

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