小さな子が5本指で鉄棒にぶら下がっているのを見たことはないだろうか。幼児においては、まだ人差し指から小指までの4本指では力が弱く不安を感じるために、親指の力を借りようとする。(指の力が弱い子は、文字を書くときですら筆圧を高めるために親指を使うことがあるほど)しかし、それをみると大人は直そうとする。理由は多分、その持ち方ではしっかり握ることができないので危ないということだろう。しかしぶら下がるということだけを考えれば、握る必要はない。ハンガーのように引っかかってさえいればいい。
握ることはブレーキをかけること
確かにいざというときに親指を使うことはある。それはギュッと握り締めてブレーキをかける時。でも実は、鉄棒の技をしている時に、手を握ることはほとんどない。連続して技を行うためブレーキをかける必要がないからだ。それどころかブレーキを使えば、せっかく得たエネルギーをブレーキによって失う(ロスする)ことにつながる。だから鉄棒は元々握るものではない。これは雲梯でも同じ。(特に雲梯は太いため、子供の小さな手では握ろうと思っても握れないが・・・。)雲梯で前に移動して行く時、手を握る瞬間などありえない。多分握ったら、その瞬間に手が外れ落ちることになる可能性が高い。
4本指を引っ掛けて回っている
では、鉄棒で技をしている時、手はどうしているか?。4本の指を鍵状にして、引っ掛けているのだ。決して握ってはいない。「しっかり握りなさい」なんて言われ、それを素直に聞いたら、振ることも回ることもできなくなってしまうことは解るだろう。イメージとしては、ハンガーを鉄棒に引っ掛けた状態を思い浮かべるとよい。鉄棒にひっかけたハンガーに少し力を加えると簡単に揺れ、さらに力を加えると回転させることができる。これはハンガーが「引っかかっているだけ」だから可能なことだ。ひっかける部分が鉄棒に締め付けられていたら、振ることも回ることも、摩擦によってしにくくなるのは必然である。
最初のうちはブレーキかけまくり
前に走っている車のドライバーがどれほどの熟練者なのかは、後ろを走っているだけでわかる。「どこで、どれぐらいの回数ブレーキを踏むか(ブレーキランプが点滅するか)でわかるのだ。急な坂道で初心者のドライバーの車の後ろについていると、ずっとブレーキを踏み続けているのがブレーキランプがずっと点灯していることで判る。怖いからだろう。経験が少ないから、どれぐらいブレーキを踏んだらスピードを制御できるかが予測できないためだ。これと同じことが鉄棒の回転技の時も起こる。怖いと思う気持ちは、手を握らせて、ブレーキをかけっぱなしにしてしまい、その結果せっかくの位置エネルギーを摩擦によってロスすることになってしまっているのだ。
回転技で鉄棒を握るのは、上で止まる時だけ
では、回転技で鉄棒を握るときはあるのだろうか。それは、基本的には最後に鉄棒上で止まる時だけだ。(将来的には難しい技をする時、手首の返し素早くするめに鉄棒を軽く握ることはある)上手になってくれば、どのように体を使えば最低限回転するだけのエネルギーを確保できるかがわかってきて、最後のブレーキさえほとんどかけなくても、鉄棒上でちょうど止まることができる。(ブレーキをかけるのは、回りすぎて、エネルギーが余ったということだから・・・)取り敢えず、運転でも鉄棒でもブレーキは少なめがいいということは間違いない。
ブレーキをかけるなというアドバイスは無駄
この知識を得ると「鉄棒は握るな!」「ブレーキをかけるな!」というアドバイスをしがちだが、それはほとんど無駄である。前述の例のドライバーに「ブレーキを踏むな!」とどれだけ厳しく行ったところで、怖いという気持ちから反射的にブレーキを踏む。経験を積んで、運転技術が上達していき、見通しが立てられるようになるまでは無理なのである。鉄棒も練習を重ねていくうちに、回転に対する恐怖心は少しづつ弱まり、それに比して手は緩んでくる。もし、もう怖くもないのに、まだ手を握りしめる癖のある子がいたら、その時はアドバイスしてあげよう。ただし、できなかったらしつこく言わないことだ。「そのうちだんだん緩んでくる」ぐらいのスタンスでいいと思われる。
鉄棒は、色々な誤解が蔓延するよってその上達が阻害されている側面があるような気がします。特に指導者(教師、親)が誤解している場合は、帰って子供の進歩を妨げる事になってしまいます。今回は「鉄棒を握る」という事について書きましたが、これ以外にもたくさんあります。また順次紹介していけたらと思っています。